艶のある黒の角型で胎表側には星と鹿を刻み、裏側に紐通し孔と取っ手つきスタンプ印章です。入手時に前1500年~前900年頃の近東制作と説明されました。
スタンプ印章は、近東では前6000年期や前3500年頃から使用され、その後、筒形印章が主となり、前900年頃の新アッシリア、前7C-前6Cの新バビロニア、前6C-前4Cのアケメネス朝期に再度登場して筒形印章にとって代わり、ササン朝期には広く使用されました。なお、取っ手つき、前19C-前18Cの角型スタンプ印章がメトロポリタン博物館に収蔵されています。
艶のある黒石は黒曜石とされ、近東では古代や古典時代(前8C~後6C末)に、他の鉱石とともに使用されました。黒曜石は、火山で生じガラス属性を有して脆く小さくカケ、貝殻状断口を示し、包丁等には適しますが、複雑な曲線等を必要とする宝石などには適さず、細工に多大の時間と技術を必要としました。
主産地は、主にカスピ海と黒海に挟まれたアルメニア地域で、成形は、産地近くでなく使用地域で成形されました。
刻まれた図柄は、押印された緑の画像のように、右側前方に5本線の星が2つ、後方上にもう1つ星を持ち、央には鹿の首・胴・尻が太く描かれ、小さな2本の角をもつ頭が後方上の星を振り返えります。脚は2本で、後脚は長くクの字型に曲がり、前脚は短く蹴り上げたように見えます。陰刻の画像でも光と陰から、鹿と星が確認できます(3枚め。13-17枚め光)。
近東では一般的に、鹿はやさしさや神聖なモノに繋がり、星は宇宙に結びつき導きを、振り返る様子は神聖なモノを想うとされます。ただ、サタンプ型が再登場した新アッシリアや新バビロニアの公的印章には、強い王を示唆するライオンや雄牛が、鹿でなく刻まれるとされます。アケメネス朝の公的印章で鹿は、動物の支配者である王と対で刻まれます。
ササン朝期には、鹿は多産、特定の占星術信仰を意味し、個人の護符や記章に使用されましたが、この時期には、半球形や楕円形が多いとされます。
制作時の確定には専門家の検討を要しますが、本品は、素材・形状・図柄などから、前900年代かやや若い時期の個人的な護符や紀章として使用されたスタンプ印章と推測でき、同時に、古代メソポタミアやペルシャの世界を身近に感じさせてくれます。
サイズ:縦約16㍉ 横約14㍉ 高さ(取っ手含む)約16㍉
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